同乗者だった場合の交通事故でも、損害賠償の請求はできるのか?

交通事故で被害を受けた人が、最初に問題にしなければならないのは、誰から被害を受けたかということです。

未成年者の事故や使用者責任が及ぶ事故、ひき逃げ事件などの例外を除いては、損害賠償請求の相手に関することで問題になることは、あまりありません。今回は家族や同僚が運転する車に同乗していて、事故に遭ってしまった事例を紹介します。

夫が妻にケガをさせた場合

夫婦でドライブ中に、夫が運転中に誤って県道脇の田んぼに車を転倒させたとします。その事故で、妻は腕の骨を折るなど全治6か月のケガをしました。妻が夫に治療費や慰謝料を請求するのは、おかしいように感じますが、実際はどうなのでしょうか?

夫婦間でも損害賠償を請求できる

加害者は、被害者のこうむった損害を賠償しなければならない、という不法行為の典型は、加害者と被害者が他人同士のときは、当たり前のこととして受け止められ、何の疑問もわきません。ところが、今回のように夫が加害者、妻が被害者となると、妻が夫に対して損害賠償を請求するのは、いささか異常というか、ためらわれるものがあります。

親子や兄弟姉妹などの家族間でも同じです。その家族の生活が円満であればあるほど、損害賠償という言葉になじまない気がします。むしろ、被害を受けた妻も、加害者の立場となった夫の苦しみを思いやって、その行為をとがめないのが普通でしょう。

しかし、結論から述べると、今回のように負傷した同乗中の妻は、運転していた夫に損害賠償の請求をすることが認められ、保険会社に対して直接、自賠責保険金(損害賠償額)を被害者請求の手続きによって請求することができます。

実際の判例

このことは、昭和47年5月30日の最高裁判決により、はっきりしました。当時、この判決は「妻は他人」という見出しで、大きく報道されました。

妻が他人という判決の根拠は、自動車損害賠償保障法3条に規定されています。家族間の事故の場合、妻や子どもなどの近親者も、この規定に該当するかどうかが問題だったのです。それまで保険会社は、夫婦や親子などの家族共同生活の特殊性から、家族間の事故については保険金の支払いを拒絶していました。

下級審判や学説でも賛否が分かれました。自動車損害賠償保障法3条では、運行供用者および運転手以外の者を他人と規定しています。昭和47年の最高裁判決では、「被害者が運行供用者の配偶者であるからといって、そのことだけで他人に当たらないと解すべき論拠はなく、具体的な事実関係のもとにおいて被害者が他人に当たるかどうかを判断すべきである」とされました。

賛否が分かれていた論争に、一応のピリオドが打たれたのです。

家族間の交通事故でも、保険金は支払われる

この判決後、保険会社も従前の取り扱いを改め、家族間の交通事故の被害者についても、多少の条件の違いはありますが、通常の交通事故と大差のない補償をするようになりました。自賠責保険は被害者が直接請求できるものですから、家族間の事故であっても、すぐに保険会社と連絡をとって、手続きを進めることが可能なのです。

原則としては、妻から夫に、子どもから親に、という請求ができますが、自動車が夫婦共有あるいは親子ともども運行供用者である、と認められるような特別な事情がある場合には、他人性がなくなり、損害賠償請求が否定されることもあります。

また、損害賠償請求が認められる場合でも、逸失利益のような消極損害と慰謝料については、問題が残っています。

前記の最高裁判例も、この点については判断していません。なお、高裁判決では、慰謝料も含まれるとするものと、夫婦親子間では慰謝料までは請求しないものとに分かれています。

仙台で暮らすのなら交通事故はこうやって防ごう

好意で車に乗せてもらった場合

次の事例を紹介します。仕事帰りに、帰る方向が同じだからと、同僚が運転する車に乗せてもらったとします。ところが、走行中に同僚が運転を誤って事故を起こし、同乗者は全治3か月の負傷で入院しました。この場合、同乗者は運転者に損害賠償請求ができるのでしょうか?

見解は分かれている

他人の自動車に乗せてもらって事故に遭い、負傷する例は少なくありません。この場合、被害を受けた同乗者が、その車の保有者・運行供用者に損害賠償できるかは、議論の多いところです。「好意同乗」「無償同乗」の問題があるからです。

車に同乗する者は、その車の走行による危険を承知し、万一事故が起こった場合にも損害賠償請求をしないという暗黙の了解があるのではないかと考える余地があります。好意で、無償で他人を同乗させるといっても、運転者と同乗者の関係は、友人や同僚などさまざまですし、同乗の目的もレジャーや仕事の都合など多岐にわたります。

積極的に同乗をすすめられた場合もあれば、強引に乗り込んだ場合もあります。それだけに、発生した結果に対する責任についての判例は、非常に見解が分かれるのです。

同乗の動機がポイントになる

自動車損害賠償保障法3条にある「他人」には、好意同乗者も含まれ、被害者が好意同乗者であるからといって、それだけで、運行供用者の責任が免除あるいは軽減されることはありません。原則的には、「賠償責任がある」と理解すべきです。

しかし、同乗の形態は千差万別であり、具体的事情の内容によっては、運行供用者の責任が免除あるいは軽減される場合もあります。判例の大半は、一応好意同乗者の他人性を肯定したうえで、具体的な事情に即して、損害賠償の減額をしているのです。

たとえば、同乗者にも同乗の動機において何らかの落ち度がある場合は、過失相殺の法理が適用されることがあります。

また、義理人情や善意好意による同乗の場合、信義則あるいは公平の観念に照らして減額されますが、このケースでは何割減額といった基準を見出すことは困難です。さらに、同乗の形態が運行供用者のまったく予想しないものであり、同乗者が運行供用者に損害賠償請求をすることが、著しく信義則に反し、公平観を害するものと認められる極端な場合は、もはや同乗者は他人とはいえず、損害賠償の請求ができないこともあります。

過去に、会社が従業員の無断私用運転を厳禁しているのを知りながら、従業員を積極的にそそのかして車を持ち出させ、夜桜見物の帰りに事故に遭って同乗者が死亡した事例があります。その場合は、死亡した同乗者および相続人らに生じた損害について、会社に運行供用者責任を問うことはできない、とした最高裁判例もあります。